いとへんuniverseには手織りの機が4台あります。
どれも昔から西陣で使われている「京機(きょうばた)」と呼ばれるものです。
着物や帯に使われてきた機なので、通常京機で織れる横幅は40cmが最大なのですが
なかには70cm幅まで織れる機があり、京機のなかではかなり貴重な存在なのだそう。
いとへんuniverseの4台のうち2台がその70cm幅が織れるもので、
現在そのうちの1台でリーダーがストールを織っています。
今織っている70cm幅は白い経糸にブルーグリーンとグレーの絣がチラチラと走る布で
名前を「チラチラ」といいます。
手織りは人の手で打ち込むため、機械織りのしゃっきりとした風合いとは違いとても柔らか。
機械で織られた布に慣れた現代人のわたしたちにとっては、
未知の風合いかも知れません。
工房に来られるお客さまも、みなさん手にしては驚き、感動してくださいます。
手織りの布をストールではなく一枚の布として考えた場合、
70cm幅の場合は40cm幅よりもがぜん、洋服への仕立てが楽になります。
せっかくの広幅なので何かつくってみたい気もするのですが
貴重な機で人が手織りした貴重な布をお洋服にしてしまうのは、
やはり贅沢すぎる気がしてなかなか勇気がでません。
それにせっかくの風合いですから、
やはりストールにして肌触りを楽しんだほうがよい気がしてしまうのです。
そんなある日、工房にいくとテスト織をした広幅チラチラの端切れが
床にポイっと置いてありました。
長さはちょうど1メートルくらいでしょうか。
緯(よこ)糸を何色にするかテストをしたため、一部分がボーダーになっています。
ストールにするには短いこの端切れ、
しかもテスト織なので緯糸の打ち込み具合も安定しておらず
製品にはできないと聞いて、思わず閃いてしまいました。
「そうだ、この布を使ってワンピースをつくろう!」と。
さて、ではどうするか。
もうテストは済んで製品を織りはじめているので
端切れはこれっきり。
貴重なチャンスですから、失敗は許されません。
「自分であれこれ考えて作るよりも、プロにお任せするのが一番」
ということで
いつもソーイングを教えていただいている友人の布構成作家・丹羽裕美子さんに
お願いすることにしました。
丹羽さんは布の生かし直しをテーマに活動されていて
いわば布のあしらいのプロフェッショナル。
わたしは、丹羽さんが60年代のカラフルな古着や着ることのなくなった男性のスーツを、
素敵な作品に生まれ変わらせておられるのを何度も目撃しているのです。
お願いしてみたところ、丹羽さんはふだんはオーダーを受けておられないのですが、
今回特別に引き受けていただけることになりました。
まずは織りたての布を、お湯で洗って地入れします。
こうすることで布が柔らかくなるのだそう。
一度洗って乾かし、また違う日に洗って乾かして
3日ほどかけて地入れをしました。
次に丹羽さんとデザインの相談。
せっかくの幅と長さをたっぷり使ってほしい、
シンプルがいいけどスタイルよく見えたらさらに嬉しい、
とわがまま放題のリクエスト(丹羽さんごめんなさい……!)。
丹羽さんはこの日のために
雛形となるシーチングを作ってきてくださっていて
万年ソーイング初心者のわたしは感激してしまいました。
絣の布は片身分しかないので、他の部分に使う布は
京都人御用達手芸店「ノムラテーラー」へ探しに行きました。
このときは丹羽さんと一緒に活動されている藍染作家の梅崎由起子さんも
お付き合いしてくださいました。
クリエイターのお二人と手芸店に行くというシチュエーションに
テンションがあがるわたし。
前身ごろがシルクの布なので、後ろもやはりシルクが合うね、
ということになり、インドシルク「シャンタン」をチョイスしました。
色もいろいろあるけれど、思い切って綺麗なブルーに決定!
3人の意見が一致したので、安心して進めることができました。
本当によかったです。
こんな重要なチョイス、一人で決断する勇気は出なかったかも知れません。
ちなみにシャンタンとは
「経(たて)糸に生糸、緯(よこ)糸に節のある玉糸を使った平織りのシルク」
のことをいいます。
中国は山東省でつくられていたので「シャンタン」というそうです。
そして、試作用の端切れの「チラチラ」は、
経糸にも緯糸にも玉糸を使って平織りしているので
「リンシャン」と呼ぶのだそう。
林山山脈でつくられていたことが名前の由来だといいます。
節のある玉糸を経糸に使えるのは、手織りならでは。
機械では節に緯糸がひっかかって機械が止まったり
糸が切れたりしてうまく織れないのです。
さて、こうしてオーダーしたワンピースが完成。
テスト織だったはぎれ布が、素敵に生まれ代わりました!
やっぱり形になるって楽しいですね。
リーダーが地色を決めるためテストした部分を
うまくアクセントにしてくださいました。
メンバーの染色作家イシガキちゃんにモデルをしてもらいました。
人が着るとさらに素敵になるのです。
さすが丹羽さん!
このワンピースは試作品としてメンバーの女子みんなで
結婚式やパーティに着回すことになりました。
こうして、オリジナルの絣の布を
少しずつ形にしていけるといいなあ……。
先日、経営学の先生たちと食事会をしていて「裾野」の話になりました。
なるべく多くの方に知ってもらう、手にしてもらうことが
いかに大事かというお話で
「てっぺんを目指すにしても、裾野が大きくないと山は高くならないよ」
とのアドバイス。
そして「布はファッションアイテムやインテリアまで
幅広く使い道があるから可能性もあるでしょう」
と言ってくださいました。
本当にそうだなあ、としみじみ。
みなさんに「欲しい」と思ってもらえる布をつくること
お洋服やバッグやインテリアに素敵に使ってもらうこと。
そしてそのためには
たくさんの方に西陣絣に触れていただくことが大事なのでしょう。
引っ越しも終わり、今週クリスマスイブにはスタジオの防音工事が始まります。
準備万端整って、いよいよ来年から布づくりも再開できそうです。