いとへんuniverseでは現在
「織りもの」だけでなく「染めもの」製品の制作も進めています。
わたしたちの活動の大きな柱は「西陣絣をつくり、伝えること」なのですが
それと同時に「手織りや手染め、糸にまつわる手仕事の素晴らしさを伝えること」も
実は立ち上げからの大事なテーマ。
「染めもの」製品もその活動の一環です。
メンバーのほとんどが染めも織りも学んでいますので
スタジオにはみんなが持ち寄った染色の道具が揃っており
絣をはじめとする織物のための糸を染めたり
完成品の布を染めたりと
それぞれが制作に使用しています。
とはいえ、やはり「染めものを製品にする」となると
メンバーのうち頼りになるのが染色作家のイシガキちゃんです。
本来はろうけつ染めの作家さんなのですが
いとへんuniverse製品用に新たな技法を取り入れ
工夫してくれました。
布地はいとへんuniverseのオリジナル白生地「ツキノシロ」。
緯(よこ)糸にやわらかくてあたたかな真綿(まわた)というシルクを使い
西陣織の「りんどう屋」さんに
力織機(りきしょっき)と呼ばれる機械の機で
織っていただいたものです。
とてもていねに染めてありますし
手染めなので、全く同じものはありません。
工房にこられたお客様にも大好評の新作となりました。
さて。
新製品の制作はプロのお仕事ですけれど
「もう少し簡単に、一般の人もこの染めを楽しめたらいいね」
ということで開催を決めたのが
「はんこ染め」のワークショップです。
あらかじめ地色を染めた半完成品の「ツキノシロ」に
体験者が上からポンポンとハンコで染料を押して
自由に模様を染めていくというもの。
そこでイシガキちゃんとわたしとで
はんこ染めワークショップの準備会を
開催することになりました。
実は、ワークショップの準備となると
いとへんuniverse唯一の「染織素人」である
わたしの出番となるのです。
わたしは参加くださるお客様と同じ立場、
しかもかなり不器用です。
このわたしが無理なく体験を楽しめれば
たいがいのワークショップはスムーズに進むはず、というわけ。
まずはイシガキちゃんが「ツキノシロ」の地色をテスト染め。
乾かす間に、コットンの布に
はんこの試し染めをしました。
はんこの材料は、ゴムを削ったり
芽がのびすぎたじゃがいもを切ったりして用意しました。
年賀状をつくるときみたいですね。
それをイシガキちゃんが色や糊を工夫してつくってくれた
染液のスタンプ台につけて
布にポンポンと押していきます。
やってみると、これがなんと
簡単だけど奥深くて、とても楽しいのです。
はんこの素材によって色のつき方が変わるし
自分で色を混ぜて配置を考えるのも面白い。
次はもう少ししっかり押してみよう
次はもう少し濃い目の色で全体のトーンを引き締めてみよう
などなど、ひとつ押すたびに
次の課題が見つかってやめられません。
楽し過ぎて、イシガキちゃんが帰った後も一人で黙々と押し続けてしまい
夜に友人がスタジオにやって来ても
そのまま押し続けながら会話するほどでした。
後から工房にやってきたリーダーも
試しに押したら止まらなくなっておりました。
もうみんなヤミツキです。
*
このテストで、染料の色や粘度、ハンコの素材が決定し
数日後、いよいよ本番の「ツキノシロ」での試作になりました。
シルクとなるとやはり緊張しますが
イシガキちゃんがあらかじめ
地色を美しくボカシ染めしてくれているので
何をどう押しても形になることは間違いありません。
わたしは黄色地のシルクに
小さな大根で丸形を染めることにしました。
すでに染まっている地色に重ねて押すので
染料の濃さなど調節しながら押していきます。
作業中はイシガキちゃんが優しく
「少しはみ出した感じのもいいよ」
「このへんに飛ばしたらいい感じ」
とアドバイスしてくれて
安心して進められました。
しばらくすると2階で別の仕事をしていたリーダーもやってきました。
「ここにグレーがあったらいいんちゃう、貸してみ」
と言って押しはじめたところ
またはまって止まらなくなってしまい
結局、真ん中部分はぜんぶリーダーが染めてくれました。
やっぱりヤミツキになるのです、はんこ染めは。
*
それにしても体験して実感したのは
イシガキちゃんがつくった販売用製品が
いかに繊細でていねいに、根気強く染められているか
ということでした。
布の特性を活かしながら、デザインを考え、染料を調節し、はんこを工夫し
慎重かつ大胆に作業をすすめていかないと
あの仕上がりにはなりません。
そして同時に、知り合いの友禅の職人さんや染色作家さんたちの
お顔と作品が次々に頭に浮かびました。
型染めの枝垂桜、手描き友禅の忘れなぐさ、藍染めの梅……
布の上に描かれる一輪一輪は
つくり手の技や工夫、努力や精進があってこそ花ひらく。
当たり前のことだけど、はんこ染めに挑戦して
そのことが実感として理解できたように思います。
*
そんなこんなで、テスト染めが完成。
春色に水玉がカラフルな、ガーリーな1枚になりました。
「かわいいーーー!! 春ーー!!」
「めっちゃ乙女〜!!」
と、女子二人でキャアキャアいい合いました。
満足です。
(キャアキャアいい合うのが、何より楽しいのです)
白いブラウスやトレンチコートにさらっと巻いてもいいし
はんこが見えるよう位置を計算して染めて
帯揚げに使っても良さそうですね。
イシガキちゃんはもう一枚のピンク地に
じゃがいもでハンコを押して試作し
大人っぽく仕上げていました。
途中で隣りの家のちびっ子たちが遊びに来て
小学生も押していましたが、問題なく上手にできていました。
大人も子どもも楽しめるはんこ染め。
簡単だけど奥深く、はまります。
これからいとへんuniverse染織ワークショップの
定番になるかもしれません。