ライター白須のいとへん日記   ♯1 機をたてる

ライター白須のいとへん日記 ♯1 機をたてる

こんにちは、広報担当のライター白須です。
このたび、ウェブサイトにコーナーをいただき
いとへんuniverseで起こる日々のアレコレを綴っていくことになりました。

メンバーの職人さんや作家さんたちを一番近くで見ている染織ファンとして
みんなのこと、西陣絣や手織物、糸の魅力をお伝えできればいいな、と思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

*  *  *  *  *

いとへんuniverseは、2015年の秋にクラウドファンディングに挑戦し
皆さまのあたたかなご支援により、無事に工房を持つことができました。

五条通間之町から少し北にあがった露地奥にある、小さな昭和の一軒家です。
京都の工房というと雰囲気のある町家を想像される方も多いと思いますが
まったく違う、普通のお家です。

ひとつだけ普通じゃないところがあるとしたら
それはキッチンのド派手なオレンジのタイルと変わった形のライトかもしれません。

他のお部屋にこだわりは感じられないのに、キッチンだけがビシバシにミッドセンチュリーテイスト。
どういう経緯があってこうなったのだろうと首をひねりたくなるほどです。

しかし、かつての住人の何かしらの主張が伝わってくるこのキッチンを、メンバー全員が妙に気に入り
交通が便利なのもあって、ほぼ即決で借りることが決まりました。

そこから年をまたぎ、3度に分けてお引っ越し。

まずは年末にリーダーが手織機を3台運びこみました。
いままでリーダーが借りていた工房は車がないと通えない遠距離で
機も2台置くのがやっとの狭さだったので
これで生産性はかなり上がるはずです。

次に京都の織物学校に通っていたメンバーのサキちゃんが関東の実家に戻るにあたり
寄付してくれたもろもろが入りました。

鏡やトルソーはもちろん、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジの家財道具に、ふとんまで!
これで一気に、工房の「実家感」が急上昇。
とても便利に、過ごしやすくなりました。

そして最後に、西陣絣職人いくちゃんが西院に借りていたアトリエを引き払い
機や染織道具を持ち込みました。

今回の工房引っ越しで実感したのは、手織機の機能性でした。
バラバラに分解できて持ち運びしやすいのです。

いくちゃんは大学時代、夏休みになると実家で織るために
毎年機を分解して、京都から郷里の青森まで車で運んで帰省していたという……(笑)
1ケ月間織れなくなってしまうことが耐えられなかったのだそうです。

いくら分解できるとはいえ
これって織物する人にとっては普通のことなのか?
いや、かなりレアなケースかと思うのですが、どっちでしょうか。

何はともあれ、そうやって何度も分解し組み立ててきたいくちゃんの愛機が
いとへんuniverseの工房にやってきましたので
一緒に組み立てを手伝わせてもらうことにしました。

昔の建物と同様に、機に釘やネジなどは一切ありません。
凹凸にあわせて木材を差し込んだりはめ込んだりして、組み立てていきます。

はじめはバラバラの状態

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくちゃんとリーダーが慣れているのももちろんですが
木材に直接「右前」とか「左後」などとマジックで書いてある(!)ので
組み立ては迷うことなくスムーズにすすみました。

意外に簡単、というのが正直な感想です。
みるみる機ができていくのを見ているのは、とても愉快でした。

ブログ機4

だんだん形になってきました

 

 

 

 

 

 

 

組み立てながら、部品の名前も教えてもらいました。
織るときに手前にひいてトントンと糸を打ちつける板を「框(かまち)」といい
框に装着して糸を通す櫛のような板を「筬(おさ)」というのだとか。

経糸(たていと)を上げたり下げたり操作する金具は「綜絖(そうこう)」
「踏み木」というペダルを踏んで操作します。

ブログ機3

踏み木をはめています

 

 

 

 

 

 

 

他にも糸のテンションを調節する歯車のような部品は「キク」
重りに使う陶器の輪っかは「シズ」というそう。
女の子の名前みたいですね。

ブログ機5

これが「キク」です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、いとへんuniverse工房には合計4台の機が設置されました。
これらはすべて、どなたかから譲り受けたものばかり。

時間を経た木の風合いにほっと心が和み
つい、手で撫でさすってしまいます。

遥か昔から人間は織物をつくってきましたし
わたしの祖先にも織物をしていた人はいたのかもしれません。

こんなにも懐かしく心惹かれるのは
先祖なのか前世なのかわかりませんが
自分のなかに織物をしていた記憶が潜んでいるからなのかな…と思うときがあります。

糸は織らないと布にできないし、布がないと衣類はつくれない。
人間にとって、自分の衣類をつくれることって、大事なことですよね。
機立てがこんなに楽しくワクワクするのも
そうしたことと関係があるのかもしれません。

生き生きと機をたてている仲間たちを見ていると
わたしもどんどん楽しくなってきて
最後は笑いながら写真を撮っていました。

ブログ機6

機らしくなってくるとテンションもあがります。いえい!