いとへんuniverseでは現在
クラウドファンディングのリターン製品である
シルクストールを製作しています。
工房に遊びに来られた方や、取材に来られた方に
できあがったサンプルをお見せするのですが
実はこのときけっこうな確率で驚かれることがあります。
それは、ストールの質感。
いとへんのストールは光沢がひかえめで
着物の紬に近い素朴な風合いをしていますが
どうやらそれが「思っていたのと違う」ようなのです。
なかには
「本当にシルクですか?」
と尋ねる方もおられるほど。
シルクストールと聞くと
やはりエルメスのスカーフのような
輝くような光沢とすべすべの手触りを
想い浮かべる方がほとんどなのでしょう。
では、どうしてそんな質感なのかといえば
それはずばり「糸づかい」にあります。
ひとくちにシルクといっても、蚕の種類や製糸方法によって
実は千差万別の糸があるのです。
編み物をされる方ならわかると思うのですが
単にウールといっても、羊の種類や撚り方によって
ふわふわだったりザックリしてたり、さまざまな風合いの毛糸がある。
シルクも同じで
ツルツルの「生糸(きいと)」もあれば
柔らかでじんわり温かい「真綿(まわた)」もあるのです。
現在製作しているストールの緯糸(よこいと)に使用しているのは
ツブツブやフワフワした節のある「玉糸(たまいと)」。
節のある糸を吐く蚕からつくられているもので
この節が独特の風合いを生み出します。
実はこの緯糸につかっている玉糸は
いとへんメンバーがみんなで、コツコツと準備をしたものです。
それは、テスト織がそろそろ終わろうかという3月のある日、
リーダーが高らかに
「みんなで節とりするで」
と宣言したことから、始まりました。
玉糸は節が味わいとなりますが
しかしあまりに節が大きかったり長かったりすると
今度は味を通り越して織り傷のように見えてしまったり
織るときにシャトルに引っかかってトラブルが起きたりするのです。
そこで緯糸を巻き取りながら
絶妙の風合いとなる良い節だけを残し
悪い節は切り落として結びなおします。
これが「節とり」。
丹後では「節コキ」というそうなので
いとへん工房内でもいつのまにか
みんな「節コキ」と呼ぶようになりました。
緯糸は大量にありますので、人海戦術しかありません。
メンバーそれぞれが工房に行けるときにいって、ひたすら巻き巻き。
やってもやっても終わらない
果てしなく気が遠くなるような地道な作業なのですが…………
実はこれがけっこう楽しいのです。
何しろいとへんのメンバーはみんな糸が大好き。
糸を触っているだけで幸せですし
古い道具を使って作業できるのが、これまた楽しい。
西陣絣加工職人の郁ちゃんはとくに嬉しそうで
仕事で何千本も糸を触ってるのに
嬉々として作業をしていました。
本当に糸が好きなのだなあ……としみじみ感心しました。
また、染色作家のイシガキちゃんは
誰もいない昼間の工房でコツコツと一人作業に勤しんでくれましたし
織物作家のナミちゃんは
仕事帰りにこまめに立ち寄って巻き巻きしてくれました。
わたしも、もちろん参戦です。
作業を続けるうちにだんだんコツがつかめるようになり
指先の感覚だけで悪い節に気づけるようになりました。
あの体得の瞬間の感動は、ちょっと忘れがたいです。
面白いもので、単なる節コキにも、性格が出ます。
不器用なくせに几帳面なわたしは、ていねいに節を取ってしまうので
「節が一番少ない生地は美紀コキだね」
と郁ちゃんが言ってくれました。
そんなふうに個性が布に反映されるのも
とても嬉しいものですね。
入れ替わり立ち替わりするメンバーと
黙々と作業をしながら
わたしの頭のなかにいつも浮かんでいたのは
織師のリーダーの言葉。
「こうすることで、糸に魂が入るんや」
毎日工房に通って、誰よりもたくさん節コキをしたのも
やはりリーダーでした。
美は細部に宿る。
細かなことにまで心を配り、ていねいに、手間ひまをかければ
それは必ずよいクオリティにつながる。
本業でも物づくりに関わっているわたしたちは
全員がそれをわかっているので
節コキの手間を惜しいとは少しも思わないのです。
そうこうしているうちに、4月から5月にかけて
リターン分のストールが少しずつ織りあがり
5月の終わりに仕立てやフリンジ加工も終了しました。
みんなの熱意と感謝の想いが織り込まれたストールは
もうすぐ支援者の皆様のお手元に届けられます。