ライター白須のいとへん日記 ♯3 玉糸のふるさと岡谷へ

ライター白須のいとへん日記 ♯3 玉糸のふるさと岡谷へ

6月の初めに、いとへんuniverseはみんなで長野県岡谷市にある
岡谷蚕糸博物館を訪ねました。

この博物館では
昭和3年創業の宮坂製糸所の糸繰り工程そのものが
展示の一部となっており
見学者は、岡谷の歴史や製糸の資料を見て学んだあとに
実際の工場を見学することができます。

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博物館には古い製糸の道具も並んでいます

 

 

 

 

 

 

 

岡谷はかつて製糸で栄えた町。
明治から昭和初期にかけて
日本の生糸生産量の3分の1を占めていたといいます。

現在では、宮坂製糸所さん一社を残すだけになってしまいましたが
最盛期の岡谷には、300を数える製糸工場が建ち並び
たくさんの女工さんたちが働いていたのだそう。

当時、シルクは日本最大の輸出製品で
製糸業は日本の近代化を支えた基幹産業でした。
大量の繭を効率よく糸にするために
技術革新が進み工程が機械化されましたが
その技術が、後の“ものづくり日本”の
基礎力になったといわれています。

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製糸の機械に夢中のリーダー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮坂製糸所さんにも大きな製糸機械が数台設置されており
とてもかっこよく存在感がありました。
しかし、やはり目をひくのは
ベテランの繰り手さんたちが
繭から絹糸を手繰(てぐ)りする姿でしょう。

実は織師であるいとへんリーダーは
宮坂製糸所さんと古くからのつきあいがあり
いとへんのストールに使われている玉糸は
ここの繰り手さんが
繭から一本一本手繰りした糸なのです。

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こうして繭から糸をひいていきます

 

 

 

 

 

 

 

乾燥させた繭をお湯で煮て
小さなほうきのような道具でひっかけて
取り出した糸をひいていく。

ひとつの繭からとれる糸はおよそ1kmもの長さになるのだとか。
どんどん糸がひかれ、繭が薄く半透明になると
中にいる蚕の姿も見えてきて
「絹糸は蚕から生まれる」という事実が
実感として伝わってきます。

この日も、いとへんuniverseの使用している玉糸が
手際よく作業されていました。
わたしたちがいつも手にしている玉糸の
生まれる瞬間を見ることができて
感慨もひとしおでした。

興味深いのは蚕の数え方で
1匹、2匹ではなく、1頭、2頭と数えるのです。
そう、牛や馬と同じ。
蚕はただの虫ではなく
暮らしを助けてくれる身近で大切な生き物だったのでしょう。

大事に育てられた蚕のいのちを思い
熱いお湯で手を赤くして作業する
年配の繰り手さんたちを見ていると
本当に少しの糸もムダにしてはいけない、と強く思います。

帰りの車のなかでも
「もっさい製品つくったらお蚕さんと繰り手さんたちに申し訳ないなぁ……」
と、しみじみ語りあいました。

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繭が薄くなると中の蚕が見えてきます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、岡谷蚕糸博物館を訪れたのは
見学以外にもうひとつの目的がありました。

いとへんuniverseの西陣絣ストールと
ハギレや余り糸から小物をつくる活動「hashi*ito」の製品を
ミュージアムショップにお届けに来たのです。

専務の高橋さんはいとへんストールと
「hashi*ito」製品をとても気に入ってくださり
ショップのなかでも一番良い場所に置いてくださいました。

みんなが緯糸(よこいと)を節コキをしたストールを眺めて
社長さんが「いい節ですね」と褒めてくださいました。

また、社長さんのお嬢さんであり
ご自身も工場で糸繰りをされている高橋さんの奥さんは
「糸繰りしているおばあちゃんたちにストールを見せたいです。
みんな喜びます」
とおっしゃってくださいました。

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みんなでディスプレイもさせてもらいました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハギレや余り糸から生まれる「hashi*ito」も売場に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地域のお年寄りがつくった糸が売れ
製品となって戻り
同じ地域でまた販売されふたたび利益となる……

とても良い循環だと思います。
糸が最終の形になったものを見ることができるのも
繰り手さんたちの仕事の励みとなるに違いありません。

すべての営みが地域の人々の経済を潤し
生き甲斐を生むような仕組みを
「里山資本主義」ともいうそうで
かつて宮坂製糸所の社長さんといとへんのリーダーは
その話で熱く語り合ったことがあるのだそう。

玉糸でつくったいとへんuniverseのストールを
宮坂製糸所で販売していただくことは
社長さんとリーダーの理想が形となった
はじめの一歩でもあるのです。

いとへんuniverseは西陣のため、宮坂製糸所は岡谷のため
そしてお互いがお互いのため
“人が幸せになるための経済活動”に
これからも挑戦していくことになるでしょう。

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ポップはイシガキちゃんがつくってくれました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたし自身は、岡谷蚕糸博物館を訪れるのはこれで2回目です。
1度目は2014年の夏で
まだいとへんuniverseを結成する前でした。

当時の旅も、リーダーが主宰するグループツアーで
そのときはじめて、まだ師匠の元で修業中だった
西陣絣加工職人の郁ちゃんに出会いました。

リーダーから声がかかり
3人でチーム結成を決めたのは
それから2ケ月後の秋のこと。
しかし、実はこのときの岡谷ツアーで
リーダーは共同体の設立とメンバーの構想を固めたのだとか。

そう、実は岡谷は
玉糸だけでなく、いとへんuniverseの生まれ故郷でもあるのでした。

そういう意味でも
わたしたちの製品の初の販売店が宮坂製糸所であることは
とても嬉しく、幸せなことだと思います。